遼寧凌源、ユリで稼ぐ「美の経済」10億元 中国花卉産業の新潮流
常住人口51万人の遼寧省凌源市が、ユリを軸に年商10億元超の花卉産業を築いた。菜百合の高収益モデルと土地集約、若き村書記の挑戦から中国地方農業の未来を読み解く。
中国東北部・遼寧省の西部に位置する凌源市。常住人口わずか51万3千人のこの地方都市が、いま中国の花卉産業地図を塗り替えつつある。国内で流通する生切りユリの実に10本に3本がここから出荷され、「中国ユリ第一県」の称号を持つ。2026年、地元の花卉生産額は10億元(約200億円)を突破。その原動力は、一人の「90後(1990年代生まれ)」村書記が田んぼでつけた一本の収支ノートにある。

核心内容
- 「菜百合」という独自モデル:凌源で栽培される「菜百合」は、花を切って売る生切り花ではない。清明節前後に小さな球根を植え、夏に蕾を摘み取って養分を地下の球根に集中させ、10月の霜前に周径10〜12センチの球根を収穫する。収穫後は冷蔵庫で約110〜120日休眠させ、湖南・湖北など南方の産地へ二次植栽用として出荷。そこで20センチ以上に育った鱗片を乾燥させ、食材や薬材として市場に流通させる。
- 1ムーあたり純益2万2千元の高収益:村書記の劉志超氏の試算によれば、1ムー(約667平方メートル)の投入は球根購入費約1万3千元、地代1500元、人件費約2000元、肥料・農薬・農機・点滴灌漑設備を合わせ約1万7千元。収量は3300斤以上、2025年の買取価格は1斤13元で総生産額は最低3万9千元、純益は2万2千元を超える。これは出稼ぎ農民の年間収入に匹敵する。
- 1990年から続く産業の歴史:凌源市政府が1990年にアジア系ユリの球根3万個を農家に一斉配布したのが始まり。独自の日照・昼夜温差・土壌条件を活かし、多期反季節生産技術を確立。「南に雲南、北に凌源」と称される産地ブランドを築いた。
- 2024年からの菜百合大規模化:小城子鎮では2024年から菜百合の栽培が本格的に拡大。政府は年利3厘(0.3%)という低利の貼息融資を用意。現在の栽培面積は2000ムー超、1ムーあたり収量は約3300斤に達する。
- 土地集約という「もう一つの帳簿」:2021年から村が主体となり土地の集中流転を推進。村委会は「差益を取らない仲介者」として農家と栽培者をつなぐ。2024年からの新たな請負期では、契約を2054年まで一括締結し、地代を最初の10年は1ムー年1300元、次の10年は1600元、最後の10年は1900元と段階的に引き上げる仕組みを導入した。
- 雇用創出と村の変貌:ユリ栽培は植え付け・除草・施肥・収穫・選別の多くの工程で人手を要し、春の集中作業時には30〜40ムーの土地に約200人が同時に働く。女性労働者は繁忙期に日給100元程度を当日現金で受け取る。村には14棟の高層住宅が完成し、住民の約3分の2が入居。2000人余りの村で300人収容の大食堂3軒が成り立つほど消費が活性化した。
- 品種の多様化と輸出の扉:凌源の生切り花はユリやチューリップから芍薬、北米冬青など20類200品種以上に拡大。2026年には優質チューリップ20万本以上が自主ブランドで欧州市場へ輸出され、長年の輸出障壁を突破した。
- 残された課題は「産業チェーンの上流」:現在の楊大営子村は菜百合の球根一次増殖のみを担い、「飯碗は他人の手にある」状態。今後の球根育種・加工・包装・EC・販売への延伸が急務とされる。

深層分析
凌源の事例が示すのは、単なる「花で稼ぐ村」の成功談ではない。中国の地方農業が、労働集約型から資本・技術集約型へと転換する過程で生まれた、ひとつの過渡期モデルである。注目すべきは、高収益の源泉が「花」そのものではなく、球根という中間財の反季節生産と南方市場への供給タイミングの最適化にある点だ。これは雲南省の生切り花産地とは異なる垂直分業の姿であり、気候条件を武器にしたニッチ市場の開拓といえる。
一方でリスクは明確だ。菜百合は連作障害を起こすため、栽培者は常に新たな適地を探し続けなければならない。南方市場の需要と価格の変動は即座に凌源の買取価格へ波及する。村書記が「高投入・高リスク、そして高リターンの可能性」と繰り返し農家に説くのは、この構造的な不安定さの裏返しである。土地流転契約を2054年まで延長し地代を段階的に設定した仕組みは、こうした不確実性に対する村レベルでの制度的な緩衝装置と読める。
産業の持続性を左右するのは、やはり産業チェーンの川上への進出だ。凌源市は研究機関と連携し「金箔」「迎春」など自主知的財産権を持つ20品種を育成、2025年にはウイルス除去済み国産球根50万個の生産に成功した。さらに「永生花(プリザーブドフラワー)」など深加工分野も海外輸出を始めている。球根の国産化と加工・販売への延伸が進めば、付加価値は飛躍的に高まる。
日本の視点で見れば、これは地域ブランド構築と6次産業化の中国版ともいえる。ただし日本と異なるのは、政府の貼息融資や土地流転の制度設計といった行政の関与が極めて直接的である点だ。若手人材の還流も進み、農科院の研修を受けた20代の女性が花卉研究センターの実験助手として働くなど、就農以外の選択肢が生まれている。
参考 URL: https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_33977674
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